正規店に入って、最初に何と言うか。それだけで、その日にバーキンやケリーが出てくるかどうかが、かなりの部分まで決まります。
株式会社TBTの田畑と申します。ブランド卸の会社でエルメスを4〜5年担当したあと、独立しました。今はエルメス専門で買取と販売をしていて、月に50〜100点を見ています。年間の取引は5億円ほど。継続してお取引のある業者は20社ほどです。
買い取る側にいると、正規店で何が起きているかが、品物とお客様の話の両方から見えてきます。今日は「聞き方」の話をします。何度通っても案内されないという方に、いちばん先に読んでほしい話です。
「バーキンありますか」は、ほぼ確実に断られる
店に入って、店員さんにこう聞いていませんか。
「バーキンはありますか?」
業界の人間として正直に言うと、これがいちばんやってはいけない聞き方です。
ロレックスの正規店に入って、いきなり「サブマリーナありますか」と聞くのを想像してみてください。店員さんの顔が浮かぶと思います。あれと同じ印象を、エルメスの店頭でも与えています。
その瞬間に、店員さんの中であなたの分類が決まります。転売目的の来店。そう判断された時点で、在庫があろうがなかろうが、出てくる可能性はほぼ消えます。
ここが残酷なところで、店員さんはそれを口に出しません。「ただいまご案内できるものがございません」としか言わない。だから、なぜ断られたのかが永遠に分からないまま、また次の店に向かうことになります。
正解は「何かハンドバッグありますか」
では、どう聞くか。
「何かハンドバッグありますか?」
これだけです。拍子抜けするほど普通の一言ですが、この一言と「バーキンありますか」のあいだには、越えられない壁があります。
頭の中ではバーキンが欲しい。それでいい。ただ、それを口に出さない。「ハンドバッグを探しています」と言えば、店員さんはその日に案内できるものを持ってきます。そしてその中に、バーキンやケリーが入っていることがあります。
指名した瞬間に候補はゼロになり、指名しなければ候補が出てくる。エルメスのハンドバッグを正規店で手に入れる入口は、事実上ここしかありません。
避けたい聞き方
「バーキンありますか?」
店員の判断 → 転売目的の来店
見せてもらえる棚 → 開かない
返ってくる言葉 → 「ご案内できません」
案内される見込み:ほぼゼロ
正しい聞き方
「何かハンドバッグありますか?」
店員の判断 → 自分用に探しているお客様
見せてもらえる棚 → 今出せるものを提示
返ってくる言葉 → 「ご案内できるものがあります」
その中にバーキン・ケリーが含まれることがある
※ 在庫や店舗の状況によって結果は変わります。ただ、商品名を指名した時点で候補がゼロになるという構造は、どの店でも共通です。
店員さんが本当に確かめているのは「誰が使うのか」
なぜ、たった一言でここまで変わるのか。
店員さんが見ているのは、そのバッグを自分で使う人かどうか、この一点です。エルメス側からすれば、店を出た足で買取店に持ち込まれるのが最悪の結末です。だから、判断材料をひたすら集めている。
商品名をピンポイントで指名する人は、その時点で「型番で品物を探している人」に見えます。自分で使う人は、ふつう型番から入りません。似合うかどうか、手持ちの服と合うかどうかから入ります。
ここを理解しておくと、聞き方だけでなく、そのあとの会話の作り方まで自然に決まってきます。
自分の話を、少しだけする
ハンドバッグを探していると伝えたあと、もうひとつ効くものがあります。自分のストーリーです。
私が大阪の店舗でケリーを買えたとき、店員さんにこう話しました。
「2年前に独立して、やっと仕事が軌道に乗ってきたので。そろそろ自分にも、いいバッグを持っていいかなと思って」
営業トークではありません。本当のことです。ただ、これを言うか言わないかで、相手が受け取る情報量がまるで違います。この人は誰かに売るために買うのではない。自分のために買う。そう伝わる。
読者の方なら、いくらでも語れると思います。仕事の節目に自分へのご褒美として。長く使える一本を探していて。家族との記念に。どれも作り話にする必要はなく、実際にそう思っているから通っているはずです。それを口に出すかどうかだけの差です。
あと、これは私の失敗から言うのですが、店に入っていきなり身の上話を始めるのは逆効果です。買い物の会話の流れの中で、自然に出す。順番が大事です。
ヒルトンの一時店舗で、1回でケリー25が出てきた日
ここまでの話を、私自身が試した日の記録です。
阪急梅田が改装中に出していた、ヒルトン大阪の一時店舗。私はこの店に、1回しか行っていません。エルパトを重ねたわけでも、担当者がいたわけでもない。完全な一見です。
その日はキャップもリュックも置いていきました。清潔感のある服に、質の良い靴とアクセサリー。店員さんが見ているのは服よりも足元と手元だからです。
店に入って、まず聞きました。「何かハンドバッグありますか」。返ってきたのは「今はないです」でした。
この日の分かれ目は、たぶんここです。私はそこで帰りませんでした。
「そうなんですね、残念です」と受けて、近くにあったメンズのシルバーアクセサリーを紹介してもらいました。「これ、いいですね」「自分で身につけたくて」と話しながら、普通に買いました。バッグの話は、そこで一度置いています。
そして、お会計をしている流れの中で、もう一度だけ聞きました。
「これも可愛かったです。ちなみに、やっぱりハンドバッグって今ないですよね?」
店員さんは少し奥に行き、戻ってきて言いました。「一応、今ご案内できるものがあります」。
出てきたのは、ケリー25のベトン、シルバー金具。定価201万4,000円。その場でお願いしますと即決しました。正直、持って帰る勇気がなかったので、大阪の業者に預けてそのまま発送してもらいました。
このケリーは、その後の業者間の取引で350万円になりました。ただ、私がここで言いたいのは、儲かったという話ではありません。
1回の来店で、一見の客に、あの日ケリー25が出てきた。運もあります。店舗の入荷の波もあります。それでも、あの日私が「バーキンありますか」と入っていたら、あのケリーは奥から出てこなかった。それだけは確信しています。
もうひとつ。最初の「今はないです」は、その日の最終回答ではありませんでした。同じ店員さんが、お会計の流れでは奥に確認しに行ってくれました。断られた時点で帰っていたら、その事実を知らないまま次の店に向かっていたはずです。
よくある質問
ケリーやバーキンを、名指しで聞いてはいけないのですか?
初回や、まだ関係のできていない店舗では避けてください。名指しした瞬間に、転売目的の来店として扱われる可能性が高くなります。「何かハンドバッグありますか」と聞けば、案内できる商品の中にバーキンやケリーが入っていることがあります。指名しないほうが候補は増える、という逆転がここにはあります。
「今ご案内できるものはありません」と言われたら、どうすればいいですか?
食い下がるのは逆効果です。ただ、そのまま帰る必要もありません。「そうなんですね、残念です」と受けたうえで、単価の低いシルバーのアクセサリーなどを紹介してもらい、自分で使うものとして普通に買う。そしてお会計の流れで、もう一度だけ「ちなみに、やっぱりハンドバッグって今ないですよね」と聞く。私がケリー25を買えた日も、この順番でした。粘って食い下がるのと、一度買い物をしてからもう一度聞くのとでは、受け取られ方がまったく違います。それでも出てこなければ、感じよく帰って日を改めてください。出ていない日は、本当に出ていません。
聞くタイミングは、入店してすぐと会計のとき、どちらがいいですか?
私は会計の流れで聞いています。何かを買ったあと、会話が温まった状態で聞くほうが、店員さんも動きやすいはずです。入店直後だと、まだあなたがどういう人か分かっていないので、判断が保守的になります。同じ一言でも、置く場所で返事が変わります。
店員さんに、自分のストーリーを話すのは不自然ではないですか?
いきなり語り出すと不自然です。商品の話をしている流れの中で、なぜ今このバッグを探しているのかを一言添える程度で十分です。長く話す必要はありません。自分で使うために来ている、と伝わればそれで役目を果たします。
案内されない理由は、変えられる場所にある
何度通っても案内されない。担当者が悪いのか、店舗が悪いのか、それとも自分の実績が足りないのか。そう考え込んでいる方は多いと思います。
ただ、買い取る側から見ていると、もっと手前でつまずいている方がかなりいます。最初の一言で転売目的の来店として処理され、そのあと何をしても取り返せていない。しかも、そのことを店員さんは絶対に教えてくれません。
もうひとつ。待っていれば順番が回ってくる、という仕組みもありません。エルメスに予約はできないので、入荷の連絡を待っている時間は、残念ながら何も積み上がっていません。動かせるのは、次に行く日の店舗と、そこで最初に発する一言のほうです。
エルメスを正規店で買うのは、ご縁だけの世界ではありません。聞き方と、そのあとの会話と、店に立っているときの振る舞い。この3つで確率は動きます。動かせる部分が自分の側にある、というのは、たぶん悪い知らせではないはずです。


