エルメスの金具|ゴールドとシルバー、相場は年に2〜3回入れ替わる

同じバーキン、同じ革、同じ色。金具がゴールドかシルバーかだけが違う2点を並べると、査定額に差が出ます。しかもその差は、いつも同じ方向を向いているわけではありません。

株式会社TBTの田畑と申します。ブランド卸の会社でエルメスを4〜5年担当したあと、独立しました。今はエルメス専門で買取と販売をしていて、月に50〜100点を見ています。年間の取引額は5億円ほどです。

毎日エルメスばかり見ていると、金具の相場が動くタイミングが分かります。これは、正規店の店員さんも教えてくれない話です。

金具の相場は、年に2〜3回入れ替わります

バーキン、ケリー、ピコタン。エルメスの主要なバッグには、ゴールド金具とシルバー(パラジウム)金具の2系統があります。

この2つ、業者の世界では常にどちらかが上でどちらかが下です。そして上下が、1年のあいだに2〜3回ひっくり返ります。

「ゴールドのほうが高級だからゴールドが高い」とか「シルバーのほうが今っぽいからシルバーが強い」とか、そういう話ではありません。好みや流行だけで決まっているなら、こんな短い周期で入れ替わるはずがない。もっとゆっくり動くはずです。

差の大きさも、時期によります。同じ型・同じ革・同じ状態で金具だけが違う2点を比べたとき、業者間の値段が数万円しか違わない時期もあれば、十数万円ひらく時期もある。バーキンやケリーのような金額帯で十数万円というのは、無視できる差ではありません。

入れ替わりの正体は、もっと単純です。

入れ替えを起こしているのは、エルメス本体です

エルメスが、その時期にどちらの金具を多く世に出すか。それだけです。

正規店にゴールド金具ばかりが並ぶ時期があります。すると当然、それを買った方が数ヶ月後、数年後に手放すときも、中古市場に出てくるのはゴールドばかりになります。数が増えれば、値は落ちる。

逆に、シルバー金具がエルメスから出てこない時期が続くと、中古市場でもシルバーが見つからなくなります。欲しい人の数は変わらないのに、モノがない。だから上がる。

この、蛇口をひねるのがエルメス本体で、水が溜まるのが中古市場、という構造です。蛇口が切り替われば、半年もしないうちに相場も切り替わります。

ひとつ補足すると、正規店に並ぶものと中古市場に出てくるものの間には、時間差があります。今日エルメスがゴールドを多く出したからといって、明日ゴールドの相場が落ちるわけではない。買った方が手放すまでの期間があるからです。私たち業者が見ているのは、その時間差を含んだ、少し先の波のかたちです。

なぜ、ゴールドとシルバーが入れ替わるのか
1
エルメスが、その時期に多く出す金具を決める
▶
2
数ヶ月〜数年遅れて、その金具が中古市場に流れてくる
▶
3
増えたほうの相場が落ち、減ったほうの相場が上がる
相場の上下は、1年で2〜3回入れ替わる(イメージ)
ゴールド
シルバー
この時期はゴールドが上 入れ替わる また戻る また入れ替わる

※ 濃い側が「相場の高いほう」。どちらが今どちらかは時期によって変わるため、この図の並びは順番のイメージです。革・色・サイズ・状態でも上下します。

買う側は、この波をどう見ればいいのか

ここまで読んで、「じゃあ今はどっちが高いんですか」と聞きたくなったと思います。

その質問には、あえて答えません。答えたところで、この記事を読んでいる時点でひっくり返っている可能性があるからです。年に2〜3回動くというのは、そういうことです。

正規店では、金具を選べる場面はそう多くありません。「ご案内できるものがあります」と出てきた1点に、ゴールドかシルバーかがすでに決まっている。買う側が指定できる立場ではない、というのが現実です。

だからこそ、知っておいてほしいことがあります。出てきた1点の金具が、自分の好みと違ったとき。そこで「ゴールドじゃないから」と見送るかどうかの判断に、この波の話が効いてきます。

市場にあふれているほうの金具は、中古で探せば見つかります。市場から消えているほうの金具は、中古では探しても出てきません。正規店で出てきた1点が、たまたま「今、市場から消えているほう」だったなら、それは自分で持つにしても、いつか手放すにしても、稀な巡り合わせです。

逆に、市場にあふれているほうの金具が出てきたなら、正規店にこだわらず中古で好みの1点を探すという道も残ります。選択肢が増える、という意味です。

「案内された1点が好みと違ったから見送った」という話を、私はよく聞きます。次に案内されるまでにまた1年かかるかもしれないのに、です。見送るのが悪いとは言いません。ただ、その1点が市場のどちら側にいるのかを知らないまま見送るのは、もったいない。

一般のお店に聞いても、答えは返ってきません

「今、ゴールドとシルバーはどちらが出やすいですか」。この質問を、街のブランド買取店やリユース店で投げても、まず答えは返ってきません。意地悪をされているのではなく、そもそも分からないからです。

エルメスの金具の需給を体感するには、エルメスを、それも同じ型を、毎月まとまった数だけ見続けているしかありません。いろいろなブランドを幅広く扱っているお店では、その粒度で相場は見えません。

正規店の店員さんも、答えません。中古相場の話は、彼らの仕事の外側にあります。

私が買ったケリー25は、シルバー金具でした

阪急梅田が改装中に出していた、ヒルトン大阪の一時店舗。私はそこに1回だけ行って、ケリー25のベトンを買えました。定価201万4,000円。金具はシルバーでした。

出てきた瞬間、私は金具を見ています。革でも色でもなく、金具を先に見た。その時期の市場に何が足りていないかを知っていれば、目の前の1点がどれくらい貴重かは、その場で分かります。

もちろん、正規店で出てきたものを金具だけで断る人はいません。私も断りません。ただ、「これは今、外に出ていない側だ」と分かって受け取るのと、何も分からずに受け取るのとでは、その1点に対する納得の深さが違います。

長く持つつもりのバッグなら、なおさらです。自分が持っている1点が、今どういう位置にあるのか。それを知っている状態で使うほうが、気持ちがいい。

よくある質問

バーキンを買うなら、ゴールド金具とシルバー金具のどちらを選ぶべきですか?

正規店では、そもそも選べない場面がほとんどです。案内された1点の金具が、すでに決まっています。そのうえで申し上げると、金具の相場は年に2〜3回入れ替わるので、「こちらが有利」と固定して考えないほうがいい。長く使うつもりなら、自分の手持ちのアクセサリーや時計に合うほうを選ぶのが、いちばん後悔が少ないと思います。

なぜ、そんなに短い周期で入れ替わるのですか?

エルメス本体が、その時期に多く出す金具を切り替えているからです。ゴールドが多く出れば数年のうちに中古市場もゴールドで埋まり、相場が落ちる。シルバーが出てこなくなれば中古でも減って、相場が上がる。買う人の好みが変わったからではなく、供給の量が動いているだけです。

人気があるのは、結局どちらの金具ですか?

好みとしては、どちらにも根強いファンがいます。ゴールドは華やかさ、シルバーは落ち着きと洋服を選ばない使いやすさで支持されています。ただ「人気=相場が高い」ではありません。相場を決めているのは人気ではなく、市場にどれだけ出回っているかです。ここを混ぜて考えると、判断を誤ります。

今どちらの相場が高いか、調べる方法はありますか?

個人の方が正確に追うのは難しいと思います。中古販売店の在庫を、同じ型・同じサイズで金具だけ見比べていくと、どちらが多く並んでいるかは分かります。多く並んでいるほうは、しばらく相場が上がりにくい側です。ざっくりとした感覚なら、それだけでもつかめます。

波を知っている人は、目の前の1点を見送らない

エルパトを続けている方の多くが、金具を「好みの問題」だと思っています。ゴールドが好きだからゴールドを待つ。シルバーが好きだからシルバーを待つ。

その気持ちは分かります。何年も待って手にする1点なら、好きなほうがいいに決まっている。

ただ、業者の側から市場を見ていると、ゴールドとシルバーは同じ場所に留まっていません。年に2〜3回、静かに入れ替わっている。そのことを知っているだけで、正規店で出てきた1点の見え方は変わります。

好みで選ぶのは、選べるときの話です。選べないときに、目の前の1点をどう受け取るか。そこに、業界の中で見えている景色が少しでも役に立てば、うれしく思います。

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