エルメスの担当者|つく人とつかない人の差と、3%マージンという構造

「担当者さえつけば、バーキンが買える」。正規店に通っている方から、いちばんよく聞く言葉です。

株式会社TBTの田畑と申します。ブランド卸の会社でエルメスを4〜5年担当したあと、独立しました。今はエルメス専門の買取と販売をしていて、年間の取引は5億円ほど、月に50〜100点のエルメスを見ています。継続してお取引のある業者さんが20社。買い取る側にいると、正規店で担当者がついた方が「どういう買い方をさせられているか」が、品物を通して見えてきます。

結論を先に言えば、担当者はゴールではありません。担当者がつくというのは、ある制度の入口に立ったというだけの話です。その制度がどういう仕組みで回っているのか、業界の中で言われていることを整理します。

担当者は「つけてもらう」ものではない

まず、よくある誤解から。

担当者は、お願いしてつくものではありません。「担当になっていただけますか」と頼んで成立するものでもない。買い物を重ねていくうちに、いつの間にか特定の店員さんが自分の名前を覚えていて、在庫が入ったときに連絡が来るようになる。それが「担当者がついた」と呼ばれている状態です。

ですから、担当者をつけるための直接の手続きはありません。あるのは、金額の積み上げと、店側から見た「この人はどういうお客様か」という評価だけです。

そして担当者がつくと、提示される商品の幅は確かに広がります。バーキンやケリーに出会う確率も上がる。ただ、それと引き換えに、支払う金額の桁も変わっていきます。

金額と待遇の、だいたいの階段

ここからは、業界の中で言われている目安です。エルメスが公表している基準ではありませんし、店舗や担当者によっても違います。それでも、業者の間で聞く話には共通した相場観があります。

月の購入額と、店側の扱いの変化(業界で言われている目安)
月 数十万円 名前は覚えられるが、バーキン・ケリーの話は出てこない
月 100万円 担当者がつく傾向。入荷の連絡が来るようになる
月 300万円 向こうから積極的に提案が来る。半年に1本ほどバーキンが回ることも
年 1,000万円 それでも1本も回ってこない人がいる。金額は保証にならない

※ エルメスの公式基準ではありません。業者の間で共有されている感覚値で、店舗・担当者・時期によって上下します。階段を上がるほど「確率が上がる」だけで、どこにも約束はありません。

月に100万円ほどをエルメスで使っていると、担当者がつく傾向がある。月300万円まで積むと、向こうから積極的に提案が来るようになる。そこまでいけば、半年に1本くらいのペースでバーキンが回ってくることもある。「使っていたら店から急に電話が来て、バーキン入りましたが要りますか、と聞かれた」という話は、実際に耳にします。

数字を並べると攻略法のように見えますが、この階段には最上段がありません。次の項で書きます。

3%マージンという、業界の噂話

ここは、あくまで業界の中の噂話として読んでください。エルメスの担当者には、自分の売り上げに対して3%ほどのマージンが入ると言われています。私が契約書を見たわけではありませんし、確かめる手段もありません。ただ、業者の間ではよく話に出ます。

仮にこれが本当だとすると、担当者から見える景色はこうなります。

同じ300万円のバーキンを1本出すとして、その1本だけを買っていくお客様と、あわせて700万円ぶんの他の商品も買ってくださるお客様がいる。売り上げは300万円と1,000万円。3%なら、担当者の取り分は9万円と30万円になります。どちらのお客様に次の1本を回すか、という話です。

誤解のないように書いておきますが、これは担当者個人を責める話ではありません。人は自分が評価される指標に沿って動きます。売り上げで評価される仕事なら、売り上げの大きいお客様が優先される。当たり前のことです。エルメスという会社が悪いという話でもない。ただ、そういう構造の上に「担当者制度」が乗っている、というだけです。

構造が分かると、担当者の言動の意味が変わって見えてきます。あれこれ勧めてくるのは、あなたを困らせたいからではない。そう動くのが自然な仕組みになっているからです。

バーキンは、担当者にとって「配れる札」

少し厳しい言い方をします。

担当者が1年に扱えるバーキン・ケリーの本数は、ある程度決まっていると言われています。無限に出せるものではない。つまり担当者は、限られた枚数の札を持っていて、それを誰に配るかを決める立場にいます。

私が業者の間で聞いている範囲では、担当者ひとりで年に2本程度だそうです。だからお願いをしても「もう今年は3本出しているので」と言われることがあります。その一言が出たなら、その年の札はもう配り終わっているという意味です。待っている側からは、何も起きていないように見えるだけで。

そして、その札は配った瞬間に効力を失います。バーキンを渡したあと、そのお客様が来なくなったら、担当者にとっては困る。だから札は、次の売り上げを引き出せる相手に、少しずつ配られていきます。釣り餌に近い使われ方だと言ってもいい。

「もう少しで案内できそうです」と言われ続けている方がいます。その一言が、次の買い物を引き出すために機能していないか。一度、疑ってみてもいいかもしれません。

担当者がつくと、抱き合わせの中身が変わります

担当者がついて、良くなることばかりではありません。案内される商品は増えます。ただ、買う金額も一緒に上がります。

担当者がつく前なら、実績はシルバーのアクセサリーで積めます。10万円のものを買って、手放すときに8万円ほど。損は2万円で収まります。担当者がつくと、ここに洋服が入ってきます。洋服は定価100万円でも、二次流通では20万円ほど。同じ1回の実績づくりで、消える額が桁で変わります(エルメスの購入実績づくりで何を買うかに、商品ごとの戻り方をまとめています)。

見られ方も変わります。誰がどこで何を買ったかは、正規店に必ず登録されています。ただ担当者がついていない段階では、これまで何本買ったかまで細かく追われてはいないそうです。その日、目の前にいる方がどういう人か。そちらの比重が大きい。担当者がつくと、そこが全部見える状態になります。「もう3本出しているので」という会話が成り立つのは、そのためです。

バーキンに出会う確率は、たしかに上がります。ただ、そこまでに払う総額も上がる。担当者をつける道が自分に合っているかどうかは、その両方を並べてから決めた方がいいと思います。

1,000万円使っても、回ってこない人はいる

ここが、いちばん正直に書いておきたいところです。

500万円使っても、1,000万円使っても、バーキンが回ってこない人はいます。これは業界では知られた現実です。

理由はいろいろあります。その店舗に、あなたより長く、あなたより多く使っている顧客が何人もいる。担当者が持っている本数がそもそも少ない。時期的に入荷が細っている。あるいは単純に、店側から見たあなたの優先順位が、まだ上位ではない。どれも、外からは見えません。

担当者をつけてバーキンを買い続けるというのは、月に数百万円から数千万円を、何年も使い続けることが前提の世界です。超富裕層の遊びの領域だと言っていい。私はこれを否定しません。ただ、その前提を伏せたまま「担当者をつけましょう」とだけ勧めるのは、不誠実だと思っています。

よくある質問

担当者をつけてください、とお願いしてもいいですか?

頼んでつくものではありません。担当者は、買い物の積み重ねと店側の評価の結果として、自然にできる関係です。お願いすること自体が失礼というわけではありませんが、それで待遇が変わることは期待しないほうがいいと思います。むしろ「早くバーキンにたどり着きたい人」という見え方になり、逆効果になることもあります。

担当者を変えたら、案内されやすくなりますか?

担当者を変えても、あなたの購入履歴と店側の評価はそのまま引き継がれます。相性が最悪で会話が成り立たないなら変える意味はありますが、「案内されないから変える」という動機だと、たいてい状況は変わりません。動かすなら、店舗のほうを見直すほうが効きます。

3%マージンというのは、本当ですか?

断言はできません。業界の中で言われている数字であって、エルメスが公表しているものではありませんし、私が確認したわけでもありません。ただ、担当者が売り上げで評価される立場にあるのは間違いなく、抱き合わせの大きいお客様が優遇される傾向は、買い取る側から見ていても実感します。数字の正確さより、その傾向のほうを覚えておいてください。

担当者がいないと、バーキンは買えませんか?

そんなことはありません。私自身、阪急梅田の一時店舗に1回行っただけで、ケリー25を定価で買えました。担当者もいませんし、その店で買い物をしたこともありませんでした。店舗の選び方、聞き方、店頭での振る舞い。この3つで動く部分は、思っているより大きいです。

何を聞いても「ご縁ですね」と言われます。突き放されているのでしょうか?

突き放しているわけではないと思います。担当者が案内できるのは年に2本程度と言われていて、しかもその売り上げが自分の評価にそのまま響く立場です。限られた本数を誰に回すかを、毎回選んでいる。本音を言える場所にいません。だから「ご縁です」という一言にまとまります。嘘をついているのではなく、説明できないことを一言で包んでいるだけです。そこを責めても状況は動かないので、自分で動かせるところだけ整えるほうが早いです。

担当者は、選択肢のひとつでしかない

担当者をつけるという道は、確かにあります。月300万円を積み続けられる方にとっては、いちばん確率の高い道でしょう。

ただ、それが唯一の道だと思い込んだ瞬間から、エルパトは苦しくなります。使った金額が足りないから案内されないのだ、もっと買わなければ、という一方通行に入ってしまう。そして、その先に約束されているものは何もない。

私がケリー25を買えた日、担当者はいませんでした。あったのは、改装中の店舗を選んだことと、お会計の流れで「何かハンドバッグありますか」と聞いたことだけです。金額を積む以外にも、動かせるものはあります。

担当者制度は、超富裕層のための仕組みです。そこに乗れる人は乗ればいい。乗らない人は、乗らない道を選べばいい。どちらでも構いません。ただ、乗っているつもりで、ただ買わされているだけ。それだけは、避けてほしいと思っています。

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