エルメスの購入実績づくりで消える金額は、何を買うかで20倍変わります。同じ「実績を積む」でも、100万円失う人と、5,000円で済む人がいます。
株式会社TBTの田畑と申します。ブランド卸の会社でエルメスを4〜5年担当したあと、独立しました。今はエルメス専門で買取と販売をしていて、月に50〜100点を見ています。年間の取引は5億円ほど。継続してお取引のある業者が20社ほどです。買い取る側から見ていると、正規店で実績づくりのために買われたであろう品が、どういう値段で戻ってくるのかが分かります。
その値段を先に知っていれば、選び方は変わります。
100万円の洋服は、20万円で戻ってくる
実績づくりで一番損をするのは、洋服です。
エルメスの洋服は、中古市場では定価の2割ほどにしかなりません。100万円分買えば、80万円が消える計算です。ファッションとして自分が着るなら、それはそれで良い買い物です。ただ「バーキンを案内されるための実績」として100万円の洋服を積むのであれば、80万円を捨ててバーキンの順番待ちに並んでいることになります。
時計も同じです。業者間では定価の半額あたりで動きます。ロレックスのような値持ちを期待して買うと、まず外します。
スカーフも、最近は厳しくなりました。定価が7万円ほどまで上がっている一方で、業者の仕入れは4万円前後。定価で買うには高くなりすぎています。
そもそも、実績はいくら必要なのか
金額の話を先にしておきます。あくまで業界の中で言われている目安です。
その前に言葉を1つ。この購入実績のことを、業界ではパーチャスと呼びます。バッグ、財布、スカーフ、食器。何を買ってきたかの積み重ねが、そのままパーチャスです。数百万円、多い方だと1,000万円を超えることもあります。正規店がここを見るのは、バーキンだけが欲しい方より、ブランド全体を買ってくださる方に回したいからです。
月に100万円ほどをエルメスで使っていると、担当者がつく傾向があります。月300万円になると、向こうから積極的に提案が来るようになる。そこまでいくと、半年に1本くらいのペースでバーキンが回ってくることもある、という話を聞きます。
ただし、保証はありません。500万円使っても、1,000万円使っても、回ってこない人はいます。これは業界では知られた現実です。
言い方を変えれば、担当者をつけてバーキンを買い続けるというのは、月に数百万円から数千万円を使い続けることが前提の世界です。そこまでの金額を積むつもりがないのであれば、実績づくりで何を選ぶかは、いっそう重要になります。何度も買い直せないからです。
なぜ、担当者は金額の大きいものを勧めてくるのか
ここは業界の中の噂話として聞いてください。エルメスの担当者には、自分の売り上げに対して3%ほどのマージンが入ると言われています。
もし本当なら、担当者から見た景色はこうなります。同じ300万円のバーキンを出すなら、700万円の抱き合わせを買ってくれるお客様のほうが、売り上げも自分の取り分も大きい。だから抱き合わせの多い人が優遇される。
担当者が悪いという話ではありません。そういう構造になっている、というだけです。構造が分かっていれば、勧められた品を「これは戻ってくる値段がいくらか」で選び直せます。
抱き合わせは、シェーヌダンクルが最強
買う側から見て、実績づくりの正解はひとつです。シェーヌダンクル。
エルメスが最初に出したアクセサリーのシリーズで、歴史があり、人気が落ちません。定価で買っても、定価以上で売れる商品というポジションを長く保ち続けています。つまり実績のために買っても、ほとんど損が出ない。
人気があるぶん、抱き合わせで「これはお出しできません」と言われることもあります。それでも、最初に狙う一手としてこれ以上のものはありません。
ピンクゴールドだけは避けてください
アクセサリーなら何でもいいわけではありません。ピンクゴールド系は、実績づくりには向きません。
エルメスのゴールド系アクセサリーは、中身が真鍮でメッキがかかっているものです。カルティエのソリッドゴールドのように、潰して地金として価値が残るわけではありません。再販の値が大きく下がります。「ゴールドだから資産になるだろう」と思って選ぶと、実績づくりのつもりが損失だけ残ります。
シェーヌダンクルが出ないときの、5,000円で済む選び方
シェーヌダンクル本体が出せないと言われたら、シルバー素材のアクセサリーに切り替えてください。
名前で言うと、アンシェヌのリング。ファランドールのピアスや指輪。このあたりはシェーヌダンクルほど品薄ではないので、次の一手として置きやすい。単価を落としたいときは、ポップHのネックレスです。1点あたりの負担が軽く、実績を細かく積みたいときに使えます。
シルバーは業者買取で8がけ、つまり定価の8割前後で売れることが多い。10万円のシルバーアクセサリーなら、業者に持ち込んで8万円ほど。損失は2万円です。単価2〜3万円のアクセサリーを選べば、1点あたりの損は5,000円前後に収まります。
洋服で2がけになる世界と比べてください。同じ「実績を積む」という行為で、消える金額が20倍違います。
シルバーも難しければ、メンズならネクタイやシプレ(サンダル)、レディースならオラン(サンダル・夏場は特に強い)。これらも2次流通で完全に沈むことはありません。
買い取る側から見た、実績商品の換金率
私たちが日々買い取っている感覚を、定価に対してどのくらい戻るかで並べると、こうなります。
※ 業者買取での目安。状態・時期・金具や革の相場によって上下します。100万円分を洋服で積むと80万円が消え、シェーヌダンクルならほぼ残る、という差になります。
財布は、革ではなくシリーズで決まります
財布の値段を決めているのは、革ではありません。どのシリーズか、それだけです。同じ革を使っていても、シリーズが違えば戻る金額が変わります。
うちが9掛けでお預かりするのは、2つだけです。シルクイン(シルクインロング、シルクインコンパクト)と、ベアン(ベアンスフレ、ベアンコンパクト、ベアンコンビネ)。この2つなら、手放しても損は1割ほどで収まります。それ以外は、同じ革を使っていても、そこまでの数字にはなりません。
戻すのか、使い切るのか
ここまでは、手放したときにいくら戻るかで並べてきました。ただ、実績づくりで損を減らす道はもう1つあります。自分で使い切ってしまうことです。
リップや香水は、二次流通でほとんど値が付きません。数字だけ見れば最下位です。それでも、自分で使うなら損という考え方そのものがなくなります。洋服も同じで、着るために買うのであれば2割という数字は関係ありません。
戻す前提で選ぶのか、使い切る前提で選ぶのか。どちらかに寄せると、実績づくりの迷いは減ります。よくないのは、どちらでもないものを勧められるまま買うことです。
私がケリー25を買えた日に、最初に手に取ったもの
ここまで書いてきたことを、自分でも試しています。
阪急梅田が改装中に出していた、ヒルトン大阪の一時店舗。私はその店に、1回しか行っていません。
入って最初に「何かハンドバッグありますか」と聞いて、「今はないです」と言われています。そこから始まっている日です。
そこで帰らずに手に取ったのが、メンズのシルバーアクセサリーでした。値持ちのする素材で、自分でも身につけられるもの。「これ、いいですね」「自分で使いたくて」と話しながら、普通に買いました。
そしてお会計の流れで、もう一度だけ聞きました。
「ちなみに、やっぱりハンドバッグって今ないですよね?」
店員さんは少し奥に行って、戻ってきて言いました。「一応、今ご案内できるものがあります」。出てきたのは、ケリー25のベトン、シルバー金具。定価201万4,000円でした。
その場でお願いしますと即決しました。持って帰る勇気がなかったので、大阪の業者に預けてそのまま発送してもらった、というのがその日の顛末です。
大事なのは「1回で買えた」ことではありません。抱き合わせで買ったのがシルバーアクセサリーだった、ということです。もしあの日、実績を作ろうとして洋服を買っていたら、ケリーが出てきたかどうかとは関係なく、その洋服の8割は消えていました。
よくある質問
実績づくりに使ったお金は、あとで回収できますか?
選ぶ商品によります。シェーヌダンクルやロデオ、ペガサスのようなチャーム類なら、定価かそれ以上で戻ることもあります。シルバーアクセサリーなら8割ほど。逆に洋服は2割まで落ちるので、ほとんど戻りません。全額回収を狙うというより、「消える金額を小さくする」という考え方が現実的です。
シェーヌダンクルは、抱き合わせで必ず買えますか?
買えないこともあります。シェーヌダンクル自体の人気が高いので、「これはお出しできません」と言われる場面はあります。その場合はシルバー素材のアクセサリーに切り替えてください。損失を抑えるという目的は、そちらでも十分に果たせます。
ゴールドのアクセサリーではだめですか?
ピンクゴールド系は避けたほうが無難です。エルメスのゴールド系アクセサリーは中身が真鍮にメッキで、地金としての価値が残りません。カルティエなどのソリッドゴールドとは別物なので、再販の値が大きく落ちます。
いくら使えば、バーキンを案内されますか?
目安として、月100万円ほどで担当者がつき、月300万円で提案が積極的になると言われています。ただし保証はありません。1,000万円使っても案内されない人はいます。金額だけの話ではなく、店舗の選び方、聞き方、店頭での振る舞いが同じくらい効きます。
実績づくりは、捨て金ではありません
正規店に通っている方の多くが、実績づくりを「バーキンにたどり着くための必要経費」だと思っています。仕方なく買っている。だから何を買うかまで考えていない。
けれど、買い取る側から見れば、その1点1点にはっきりと値段の差があります。シェーヌダンクルを選んだ人と、勧められるまま洋服を買った人とでは、同じ100万円の実績でも、手元に残るものが80万円違う。
知っているかどうかだけの差です。


